夏の感想文
初夏から秋にかけて一番目に焼き付いているのは、モンゴルからチベットにかけて、ヤクを引きながら徒歩で旅したニセ僧侶の話。「天路の旅人」は沢木耕太郎の一番新しい書で、戦時中の日本人スパイの足跡を追いかけたノンフィクションの話だった。スパイの男は愛国心のあまり立身出世で南満州鉄道に入社して、そのままスパイになってしまった。ラマ僧に扮して当時敵国だった中国の西域まで歩いていき、乞食同然の暮らしをした。旅の途中に終戦を知らされ、それでも、そのまま本部に戻ることなく赴くままにインドのカルカッタまで旅をつづけた。20代だった彼は、もともと無口で、風貌のこともあって、他の巡礼者にも日本人だということがバレなかった。蒙古人の言葉を覚えて、大勢のキャラバンにも紛れ込んで一緒に旅をした。