ムダイ

2021年07月06日

開け放った鉄扉の奥に、暗闇があって、街灯がうっすら差し込んで 、中にいる数人をぼんやり照らしている。その人たちの目の前には、大きな絵。でも見えない。真っ暗なので、姿がない絵。そういうものを、見に来た。潮の匂いがした。なんかいい匂い、と思って身を任せた。自分だけが、この絵が血で描かれたことを知らなかった。このことをその辺の小説みたいに書くことを今やめた。

しばらく気持ちが戻って来れないことはわかったので、それならと、また次の日も絵を見に行った。昼間は、金色だった。覚えていられるだろうか。目で見たものを。どれくらい。あの匂いは何年残るだろうか。ベニヤの、面にまかせて、干されている。まだ生きている。自分の血もこういう風に匂って、感じるだろうか。海だろうか、魚だろうか。山の、春だろうか。

景色が変わる、でもまたすぐ戻る。たしかに変わったという事実が時間に服従する。風はかなり遅れて、その音もさらに遅れて、見当違いの場所に吹き付ける。人が山を開く、家を建ててそこに住む。人が抜け出て、家が残される。横須賀の谷戸にもそんな家があったようで、これからそこに持ち込まれるティーカップや自転車。自分の歌に死をのせ、生をのせ、重たいからといってやめるでないぞ。訓



 


imanari tetsuo

 
CNDRL WORKS
Powered by Webnode
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう