あばかれたせかい
2021年12月27日
視覚化された思考が、煮凝りみたいに味を閉じ込めたまま、真冬の台所の鍋の中でじっとしている。家を空けているときは、風を閉ざしたこの部屋が、冷たい豚汁の匂いで、すんと満たされている。
口に出しても、その場で消えてしまった。
視覚化された思考
口に出しても、その場で消えてしまった。
あなたの耳にささやいても、あなたは出かけてしまった。
視覚化されるしかなかった、思考たち。
いま何を考えていたのだろう。
お腹と背中がくっついた時の、皮膚と皮膚のやりとり
三段飛ばしでまたがれた、神社の石段の気持ち
どれも、ずっと前からあるようで、ついさっき現れたようで、
まだ子供の気持ち
気持ちの子供
冬の澄みきった冷たい空気。
これはきっと綺麗なものでしょう。何でも曇りなく伝達してしまう、つやつやで透明の粒子たち。この空気が、まちゆく人々の体を包み込んでいる。織物と織物のスキマに空気の層ができて、その中に熱がこもっては、ぽぽぽっと放出される。
水蒸気はその正体を暴かれ、白状したのち、もやもやと宙に消えた。肌の表面から、白いメッキは小さくめくれて、男も女も、人形のようにまっさらな頭で、どこかにまっすぐ歩いていく。
今こそ暴くのだ
暴かなくても良いものを。
暴かなくても良いものを。
豚汁はいまにも凍りつこうとしている。
凍りついたら、きっと具材の細胞壁がどうにかなって、豚汁は豚汁ではない別の汁物に成り果てる。
豚汁を、暴いたことにはならないだろうか。
隙間から吹き込んだ山の風が
この山の暮らしを暴いたことにならないだろうか