セミと歯形
2019年09月07日
今、うちの猫がどこかでセミを獲ったみたいで、ぎーぎー鳴き声がこっちに近づいてくる。獲物をくわえたまま、いつものガラス戸まで持ってくるつもりだ。うちの中でセミを転がすつもりだ。近頃毎日とってくる。食べ物がなくなると、セミを食べている。不便さ、適度な不便さがないといけないと言って友達は徳島に旅立った。くわえているものを放しなさい。猫の口に指を突っ込んでやっても全然放そうとしない。しっかりくわえて、こっちの反応をうかがう。もし猫の私小説を書いていたら、こんな出だしなんだろうか。軽井沢近くの東横インからは、ちいさな盆地の景色がとっても静かに見える。七階の部屋は清潔で、テレビでは地方局の女子アナがブドウがいかに甘いかについて、上品に、ささやいている。男たちは階下に降りて、6000円のコース料理と4万円の山崎を空っぽにして、今、それぞれ記憶を空に放り投げている。盆地にも、秋のいい風が吹く