ふところには

2020年11月06日

猫がみてる。恋だろうか。いつもより乱暴な姿勢で、鼻を押し付けたから、驚かしたかもしれない。冬が近づいているから、町の音がよく聞こえる。あなたのことを思ってるのに、世界がどんどん天かすのように揚がっていく。商店街を歩いている。商店街を歩くのが好きだったから、安心して歩こうと思う。けれども意識は天井のない空や、蓋のない地面のほうに吸い寄せられていく。はじめ、僕は何だったのか。思うでもなく、誰かに聞かれるでもなく、だらっと横たわった大きな問いに枯葉や潰れたギンナンを足で刷り込んでゆく。不機嫌な風に見えるけれども、本当はうわついている。15号線にタクシが飛ばす。感情のない車とギンナンのにおいが、これから起こる生々しい出来事を覚悟しろと言っている。朝は17歳夜は70歳。手が動かないのが嫌で、ついつい、つんのめった、ピアノ。それでもいいと言って店の出口で待つバルボラ。大雑把なあなたの感覚が好きです。きれいな顔で、もっと雑な時を刻んだっていい。

父が山で遭難した。いろいろなところに電波が放たれ、真っ暗になる少し前、警察の車よりも早く、杖をついた父がゆっくり茂みから出てきた。去年も一人滑落した山で、髪型を少し崩した、登山家の帰還。





imanari tetsuo

 
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